彼は強い。 早く医者に見てもらって服薬でもしたら四時前には全快するだろうと、それから細君と相談をして甘木医学士を迎いにやると生憎昨夜が当番でまだ大学から帰らない。 からだを拗じ向けたり、手を延ばして年寄が三世相を見るようにしたり、または窓の方へむいて鼻の先まで持って来たりして見ている。 エピクテタスにそんな事をしろと書いてあるのか知らん。 御めっちの知った事じゃねえ。 嗅いで見ると釜の底の飯を御櫃へ移す時のような香がする。 エヘヘヘ少し違った方角でと寒月君が笑う。 　少し弁解したかったが、ここが我慢のしどころと唾を呑んで聞いている。 しかし寒月君の女連れを羨まし気に尋ねた事だけは事実である。 主人に劣らぬほどの無性猫となった。 その上に日本の墨で吾輩は猫であると黒々とかいて、右の側に書を読むや躍るや猫の春一日という俳句さえ認められてある。 そんな呪いで魔は落ちない。 主人の服装には師走も正月もない。 二人は女で私がその中へまじりましたが、自分でも善く弾けたと思いましたふん、そしてその女というのは何者かねと主人は羨ましそうに問いかける。