虚子先生が女に惚れる烏かなと烏を捕えて女に惚れさしたところが大に積極的だろうと思いますこりゃ新説だね。 これでは手のつけようがない。 細君は隣座敷で針箱の側へ突っ伏して好い心持ちに寝ている最中にワンワンと何だか鼓膜へ答えるほどの響がしたのではっと驚ろいて、醒めぬ眼をわざとって座敷へ出て来ると迷亭が薩摩上布を着て勝手な所へ陣取ってしきりに扇使いをしている。 しかしこの暑さは別物ですよ。 博士になったら、だれとかの娘をやるとかやらんとか云うていましたから、そんな馬鹿があろうか、娘を貰うために博士になるなんて、そんな人物にくれるより僕にくれる方がよほどましだと云ってやりました これでは手のつけようがない。 いいえ、それじゃないの、もっと長い名があるでしょう ――どうだろう、こう云う趣向は。 　主人は少々談話の局面を展開して見たくなったと見えて、どうです、東風さん、近頃は傑作もありませんかと聞くと東風君はいえ、別段これと云って御目にかけるほどのものも出来ませんが、近日詩集を出して見ようと思いまして――稿本を幸い持って参りましたから御批評を願いましょうと懐から紫の袱紗包を出して、その中から五六十枚ほどの原稿紙の帳面を取り出して、主人の前に置く。 頭だけで評すると何か緞帳役者のようにも見えるが、白い小倉の袴のゴワゴワするのを御苦労にも鹿爪らしく穿いているところは榊原健吉の内弟子としか思えない。 この時まで身動きもせずに覘いをつけていた棚の上の怪物は、ここぞと吾輩の額を目懸けて棚の上から石を投ぐるがごとく飛び下りる。 この下女は人から歯軋りをすると云われるといつでもこれを否定する女である。 なかなか癒りません。 せんだっても私の友人で送籍と云う男が一夜という短篇をかきましたが、誰が読んでも朦朧として取り留めがつかないので、当人に逢って篤と主意のあるところを糺して見たのですが、当人もそんな事は知らないよと云って取り合わないのです。