吾輩はどこまでも人間になりすましているのだから、交際をせぬ猫の動作は、どうしてもちょいと筆に上りにくい。 また一番地面に近い二人の女の首と首を繋いでいる縄はホリゾンタルと仮定します。 君も僕もその辺にぬかりはない当世の才子だが、そこへ行くと苦沙弥などは憐れなものだ。 　細君は喧嘩を後日に譲って、倉皇針箱と袖なしを抱えて茶の間へ逃げ込む。 君に機鋒を折られたのだね。 金田の鼻などもスターンに見せたら善い材料になったろうに残念な事だ。 それは駄目に極っています。 ところへ閑人が物珍しそうにぽつぽつ集ってくる。 寒月君もらっちゃいかんよと大変熱心に主張する。 苦労と心配と争論とがなくて事件が進捗すれば人生の目的は極楽流に達せられるのである。 いいや君、話したって損の行く事じゃなし、話そうじゃないか苦沙弥君――奥さん、私でも苦沙弥でも寒月君に関する事実で差支えのない事は、みんな話しますからね、――そう、順を立ててだんだん聞いて下さると都合がいいですね ］それでも君のなんぞ、ぶくぶくだぜ演者自身の局部は回護の恐れがありますから、わざと論じません。 苦沙弥君の文は行雲流水のごとしとありましたよ細君は少しにこにこしてそれぎりですかその次にね――出ずるかと思えば忽ち消え、逝いては長えに帰るを忘るとありましたよ細君は妙な顔をして賞めたんでしょうかと心元ない調子である。 そこでこの矛盾なる現象の説明を明記して、暗黒の淵から吾人の疑を千載の下に救い出してくれた者は誰だと思う。