博士にならなければやれないとおっしゃるんですかと主人は不愉快そうに尋ねる。 妾しには地味過ぎていやだから御前に上げようとおっしゃった、あれでございますあらいやだ。 迷亭はあの時分から法螺吹だったなと主人は羊羹を食い了って再び二人の話の中に割り込んで来る。 ちょっと見ろ、鼻毛の白髪だと主人は大に感動した様子である。 下手なものをやれば智識の威厳を損する訳になるばかりだ。 主人は鼠色の毛布を丸めて書斎へ投げ込む。 金田家の廊下を人の知らぬ間に横行するくらいは、仁王様が心太を踏み潰すよりも容易である。 何のために、かくまで足繁く金田邸へ通うのかと不審を起すならその前にちょっと人間に反問したい事がある。 なんとも云えないよ。 本当に御隠しなさってもいけませんよ、ちゃんと種は上ってるんですからねと鼻子はまた得意になる。 驚くか、嬉しがるか、恥ずかしがるかと寒月君の様子を窺って見ると別段の事もない。 ところが先生例の通り独逸語が使って見たくてたまらん男だろう。 皮も自然堅くなります、肉も次第に硬くなります。 やはり苦沙弥の所で御逢いになったんですか。