いえ君の事を云うんじゃないよ。 不具だ 迷亭はまたやり初める。 ねえ鈴木、君も実業家の末席を汚す一人だから参考のために言って聞かせるがね。 ……水島寒月さんの事で御用があるんだそうでございますと小間使は気を利かして機嫌を直そうとする。 なるほどこりゃあ善い、天然居士相当のところだ主人は嬉しそうに善いだろうと云う。 全く今日まで知らなかったんだ。 ――もっとも問題は団栗だか首縊りの力学だか確と分らんがね。 人の鼻を盗んで来て顔の真中へ据え付けたように見える。 　今日は上天気の日曜なので、主人はのそのそ書斎から出て来て、吾輩の傍へ筆硯と原稿用紙を並べて腹這になって、しきりに何か唸っている。 仕舞には東風と独逸人を四方から取り巻いて見物する。 こいつは剣呑だと水桶の裏へかくれる。 にくらしいんだよへえそんなによく似合うものをなぜだまって貰ったんだいへえ御前にさえ、そのくらい似合うなら、妾しにだっておかしい事あないだろうじゃないかきっとよく御似合い遊ばします似あうのが分ってる癖になぜ黙っているんだい。 吾輩は例の忍び足で再び勝手から往来へ出て、急いで主人の家に帰る。