無駄骨を折り、無駄足を汚すくらいは猫として適当のところである。 そうか。 奥の部屋で細君が怺え切れなかったと見えてクツクツ笑う声が聞える。 そうだ仮令半株だって千年も持ってるうちにゃ倉が三つくらい建つからな。 それを君がすました顔で写生するんだから苛い。 例の通り静かな調子でどうか私に、あの娘を貰ってくれと云う依頼なんでしょうと、また紫の紐をひねくる。 曖昧じゃありませんよ、ちゃんと分っています、ただ説明しにくいだけの事でさあ何でも自分の嫌いな事を月並と云うんでしょうと細君は我知らず穿った事を云う。 吾輩は主人のあとを付けて垣の崩れから往来へ出て見たら、真中に主人が手持無沙汰にステッキを突いて立っている。 しかし智識その物に至ってはどうである。 空気の切売が出来ず、空の縄張が不当なら地面の私有も不合理ではないか。 また一番地面に近い二人の女の首と首を繋いでいる縄はホリゾンタルと仮定します。 金田の娘を貰おうが貰うまいがそんな事はまずどうでもよい。 鼻子は社交を知らぬ人達だと腹の中で憤る。 吾輩はどこまでも人間になりすましているのだから、交際をせぬ猫の動作は、どうしてもちょいと筆に上りにくい。