牛肉一斤が隣り近所へ自慢なんだから始末に終えねえ阿魔だと黒は嘲りながら四つ足を踏張る。 うまく癪が起りましたかと主人は警句を吐く。 三毛子は嬉しそうにあら御師匠さんが呼んでいらっしゃるから、私し帰るわ、よくって？わるいと云ったって仕方がない。 随分丈夫だわね六十二で生きているくらいだから丈夫と云わねばなるまい。 吾輩は険呑になったから少し傍を離れる。 どうかしてあすこの所へ人間を下げて見たい、誰か来ないかしらと、四辺を見渡すと生憎誰も来ない。 余は年来の胃弱を直すために出来得る限りの方法を講じて見たがすべて駄目である。 Ｚでなくてはいかん。 　なるほどあの男の事だから正月は遊び廻るのに忙がしいに違いないと、主人は腹の中で迷亭君に同意する。 首がかかってふわふわするところを想像して見ると嬉しくてたまらん。 あのちょっとくらい外出致しても差支えはございますまいねと細君が聞く。 かくのごとく虚栄心に富んでいるものの実際はやはり胃弱でない方がいいと見えて、今夜から晩酌を始めるなどというのはちょっと滑稽だ。 君歯をどうかしたかねと主人は問題を転じた。 四五日前のことであったが、二人の小供が馬鹿に早くから眼を覚まして、まだ主人夫婦の寝ている間に対い合うて食卓に着いた。