球が空にあがる。 　下女は大に感動している。 それからなお読んで行くと御前なんぞは実に仕合せ者だ。 全体どこにあったのかと問う。 そう来なくっちゃ本ものでない。 その翌日になると細君が云うには今日は三十三間堂です、私は是非摂津の三十三間堂が聞きたい。 その内調べて見ましょうこれで懸合をやった日には頓珍漢なものが出来るだろうと吾輩は主人の顔をちょっと見上げた。 達観しない証拠には現に吾輩の肖像が眼の前にあるのに少しも悟った様子もなく今年は征露の第二年目だから大方熊の画だろうなどと気の知れぬことをいってすましているのでもわかる。 勘定をして見ると往来を通る婦人の七割弱には恋着するという事が諷刺的に書いてあったのを見て、これは真理だと感心したくらいな男である。 いつになく富士見町の方へは足が向かないで土手三番町の方へ我れ知らず出てしまった。 　ところへ下女がまた第三の端書を持ってくる。 よく人が首を縊ると云うがこんな時にふと誘われて死ぬ気になるのじゃないかと思い出す。 目付でも、鼻付でも、毛並でも、足並でも、みんな違う。 吾々は時とすると理詰の虚言を吐かねばならぬ事がある。