勘太郎は四つ目垣を半分崩して、自分の領分へ真逆様に落ちて、ぐうと云った。 　挨拶が一通り済んだら、校長が今日はもう引き取ってもいい、もっとも授業上の事は数学の主任と打ち合せをしておいて、明後日から課業を始めてくれと云った。 しかもそれが赤シャツだから人を馬鹿にしている。 今となっては十倍にして返してやりたくても返せない。 六百円を三に割って一年に二百円ずつ使えば三年間は勉強が出来る。 その年の四月におれはある私立の中学校を卒業する。 もっとも驚いたのはこの暑いのにフランネルの襯衣を着ている。 つまらない、廃せばいいのにと思った。 　何だか二階の楷子段の下の暗い部屋へ案内した。 　母が死んでから五六年の間はこの状態で暮していた。 向うで部屋へ持って来てお小遣いがなくてお困りでしょう、お使いなさいと云ってくれたんだ。 ある時などは清にどんなものになるだろうと聞いてみた事がある。 下女が雨戸を明けている。 おれが行くたびに、居りさえすれば、何くれと款待なしてくれた。