どうせ兄の厄介になる気はない。 親身の甥よりも他人のおれの方が好きなのだろう。 よしやれるとしても、今のようじゃ人の前へ出て教育を受けたと威張れないからつまり損になるばかりだ。 おれがはいったのを見て、みんな申し合せたようにおれの顔を見た。 山城屋とは質屋の勘太郎の屋号と同じだからちょっと面白く思った。 帰りに山嵐は通町で氷水を一杯奢った。 妙なおやじがあったもんだ。 兄は実業家になるとか云ってしきりに英語を勉強していた。 　挨拶が一通り済んだら、校長が今日はもう引き取ってもいい、もっとも授業上の事は数学の主任と打ち合せをしておいて、明後日から課業を始めてくれと云った。 腹が立てば喧嘩の一つぐらいは誰でもするだろうと思ってたが、この様子じゃめったに口も聞けない、散歩も出来ない。 今度は鎌倉どころではない。 こんな所に住んでご城下だなどと威張ってる人間は可哀想なものだと考えながらくると、いつしか山城屋の前に出た。 いい心持ちである。 この三年間は四畳半に蟄居して小言はただの一度も聞いた事がない。