鼻から吹き出した日の出の煙りが耳を掠めて顔の横手へ廻る。 東風の御宮は面白かろう。 何も僕を胃弱の標準にしなくても済むと主人はつぶやいた。 　ところへ当分多忙で行かれないと云って、わざわざ年始状をよこした迷亭君が飄然とやって来る。 　また大兄のごとくか、失敬な。 今度は本当の御馳走だ。 主人の話しによると仏蘭西にバルザックという小説家があったそうだ。 彼は家屋を地上に引く。 それじゃまた遊びにいらっしゃいと鈴をちゃらちゃら鳴らして庭先までかけて行ったが急に戻って来てあなた大変色が悪くってよ。 水の中へ飛び込んだつもりでいたところが、つい間違って橋の真中へ飛び下りたので、その時は実に残念でした。 　下女は大に感動している。 こりゃ変だと気が付いてそこいらを見渡すと驚きましたね。 それじゃ四時を過ぎればもう駄目なんだねと念を押して見たら、ええ駄目ですともと答える。 早く医者に見てもらって服薬でもしたら四時前には全快するだろうと、それから細君と相談をして甘木医学士を迎いにやると生憎昨夜が当番でまだ大学から帰らない。