たしかなところはよく考えて見ないと分りませんわと細君はまだ考えるつもりでいる。 帯はどんな帯だ この春朗読会へ招待してから、懇意になってそれからは始終交際をしている。 すると今まで三人の談話を分らぬながら傾聴していた細君がそれでも金田さんは家族中残らず、先月から大磯へ行っていらっしゃるじゃありませんかと不審そうに尋ねる。 山の芋まで持って行ったのか。 それを透して薄紅なものがだんだん濃く写ったと思うと、紙はいつか破れて、赤い舌がぺろりと見えた。 も少し障子の方へ向いて、そう鋏を寝かさずに――そうそうそれなら見えるでしょうおやまあ写真ですねえ。 先月大磯へ行ったものに両三日前東京で逢うなどは神秘的でいい。 ついこの御近所に住んでおります。 全能とも云えようが、無能と評したって差し支えはない。 ――いや這入って見たって仕方がない。 おやいらしゃいましと云ったが少々狼狽の気味でちっとも存じませんでしたと鼻の頭へ汗をかいたまま御辞儀をする。 もっともその時分には、あの宿屋に御夏さんと云う有名な別嬪がいて老梅君の座敷へ出たのがちょうどその御夏さんなのだから無理はないがね無理がないどころか君の何とか峠とまるで同じじゃないか少し似ているね、実を云うと僕と老梅とはそんなに差異はないからな。 猛虎も動物園に入れば糞豚の隣りに居を占め、鴻雁も鳥屋に生擒らるれば雛鶏と俎を同じゅうす。