迷亭はすぐさまどうだいと自慢らしく主人と細君の前に差し出す。 この奇問には細君も何と答えてよいか分らんので 俺はもう盗難告訴を書いてやらんから 不便な事さ。 教師は無論嫌だが、実業家はなお嫌いだと主人は何が好きだか心の裏で考えているらしい。 長どんと併んで……君は呉服屋の話をするのか、人売りの話をするのかそうそう人売りの話しをやっていたんだっけ。 寒月君博士論文はもう脱稿するのかねと主人が聞くと迷亭もその後から金田令嬢がお待ちかねだから早々呈出したまえと云う。 ――先生あの男がいくら貰ってると思いなさる 頑愚だな。 へっついは貧乏勝手に似合わぬ立派な者で赤の銅壺がぴかぴかして、後ろは羽目板の間を二尺遺して吾輩の鮑貝の所在地である。 僕の母などと来たら、おやじの前へ出てはいとへいで持ち切っていたものだ。 不思議な事にはその鍋の蓋を見ると大小十個ばかりの穴があいている。 届ではない告訴です。 バタを溶かして玉子を落したんでさああらまあところがやっぱり天日は思うように行きませんや。