細君はようやく御機嫌が直って少々笑顔になる。 ほんに少し金さえあれば、すぐ二倍にでも三倍にでもなります 届ではない告訴です。 得意なのは持主だけでところが壊われないから妙でしょうと、くちゃくちゃになったのを尻の下から取り出してそのまま頭へ載せると、不思議な事には、頭の恰好にたちまち回復する。 どんな帯って、そんなに何本もあるもんですか、黒繻子と縮緬の腹合せの帯です まず世間を見渡して見給え。 動かないのも無理はない。 細君は横を向いてちょっと澄したが再び主人の方を見て、 何でも、こう、一としゃくいに引っ掛けてねと云いつつ箸を上げると、長い奴が勢揃いをして一尺ばかり空中に釣るし上げられる。 鏡花の小説にゃ雪の中から蟹が出てくるじゃないかと云ったら寒月君はなるほどと云ったきりまた謹聴の態度に復した。 何だか東郷大将のような心持がする。 惜し気もなく散る彼岸桜を誘うて、颯と吹き込む風に驚ろいて眼を覚ますと、朧月さえいつの間に差してか、竈の影は斜めに揚板の上にかかる。 　せんだってじゅうから日本は露西亜と大戦争をしているそうだ。 主人は芋坂の団子を喰って帰って来て相変らず書斎に引き籠っている。