話しはそんなに運んでるんじゃありませんが――寒月さんだって満更嬉しくない事もないでしょうと土俵際で持ち直す。 かの金田の御母堂の持たせらるる鼻のごときは、もっとも発達せるもっとも偉大なる天下の珍品として御両君に紹介しておきたいと思います寒月君は思わずヒヤヤヤと云う。 寒月さんが、ここへ来る度に、どんな話しをするかと思って車屋の神さんを頼んで一々知らせて貰うんですそりゃ苛いと主人は大きな声を出す。 座に着くと、いきなり君、越智東風の高輪事件を聞いたかいと旅順陥落の号外を知らせに来たほどの勢を示す。 いや御話しにもならんくらいで、妻が何か聞くとまるで剣もほろろの挨拶だそうで…… 滑稽である。 だから標札は当にゃなりませんよ。 　あまり迷亭の言葉が仰山なので、さすが御上手者の鈴木君も、こりゃ手に合わないと云う顔付をする。 　忍び込む度が重なるにつけ、探偵をする気はないが自然金田君一家の事情が見たくもない吾輩の眼に映じて覚えたくもない吾輩の脳裏に印象を留むるに至るのはやむを得ない。 この間ピン助に遇ったら、私の学校にゃ妙な奴がおります。 迷亭はあの時分から法螺吹だったなと主人は羊羹を食い了って再び二人の話の中に割り込んで来る。 付け文じゃないんです、もっと烈しいんでさあ、御二人とも御承知じゃありませんかと鼻子は乙にからまって来る。 第一句がこの顔に鼻祭りと云うのだそれから？次がこの鼻に神酒供えというのさ次の句は？まだそれぎりしか出来ておらん面白いですなと寒月君がにやにや笑う。 それから主人はこれを遠慮なく朗読して、いつになくハハハハ面白いと笑ったが鼻汁を垂らすのは、ちと酷だから消そうとその句だけへ棒を引く。