実は寒月君の事だけ聞いて復命さえすればいいつもりで、御嬢さんの意向までは確かめて来なかったのである。 まだあるのか、じゃ三人か 元来この主人はぶっ切ら棒の、頑固光沢消しを旨として製造された男であるが、さればと云って冷酷不人情な文明の産物とは自からその撰を異にしている。 迷亭は口をもがもがさしている。 博士なんて到底駄目ですよと主人は細君にまで見離される。 まあどっちが本当か知りませんが、悪くすると一度で死ねない事が往々実例にあるので。 主人の顔は渋い。 下世話にも鼻より団子と申しますれば美的価値から申しますとまず迷亭くらいのところが適当かと存じます寒月と主人はフフフフと笑い出す。 吾輩の尊敬する尻尾大明神を礼拝してニャン運長久を祈らばやと、ちょっと低頭して見たが、どうも少し見当が違うようである。 おや大分大きくなった事、こんなじゃ無いと思っていたと言ったところをもって見ると、年に合わして禿があまり大き過ぎると云う事をようやく自覚したらしい。 迷亭は一向頓着しない。 鼻恋でも寒月が貰えばいいが そうだろう苦沙弥君と云って退けると、主人はまた黙って菓子皿を叩き出す。 人の邸内へは這入り込んで差支えなき故込まざるを得ず。